論文、資料のページ
▶The relation between tender points and fibromyalgia symptom variables:evidence that fibromyalgia is not a discrete disorder in the clinic.
線維筋痛症の標準的診断基準である、アメリカリウマチ学会線維筋痛症診断基準の中心的人物であるWolfe教授の論文です。
▶More pain, more tender points: is fubromyalgia just one end of a continuous spectrum?
線維筋痛症と局所的慢性疼痛疾患の筋筋膜痛の関係に関する論文です。
▶Myofascial pain, fibromyalgia or fibrositis?
頭痛研究の著名な研究者が、頭痛研究からのアプローチで顎関節症、筋筋膜痛、線維筋痛症について解説しています。
▶Effect of Occlusal Therapy on Patients with Myofascial Pain Syndrome and Fibromyalgia.
日本リウマチ学会での私の発表です。
▶Management of Temporomandibular Disorders.
(National Institutes of Health Technology assessment Statement 1996)
アメリカ国立衛生研究所の顎関節症治療に関する公式な見解です。
▶Widespread pain and the effectivness of oral splints in myofascial face pain.
スプリントは同じように作っても効果が安定しません。スプリントが効く顎関節症と効かないものはどう違うかと言う研究です。アメリカ歯科医師会の機関誌に載った論文です。
▶(株)日本学校保健研修社の雑誌「健」に掲載された私の記事です。
▶The relation between tender points and fibromyalgia symptom variables:evidence that fibromyalgia is not a discrete disorder in the clinic.
著者:Wolfe F(Arthritis Research Center)
Annals of Rheumatic Diseases誌. 1997年Apr;56(4):P268-71
線維筋痛症は独立した疾患であるかどうかを検討するために、疼痛の起きる閾値と症状の関係を調べた。1993年から1996年にかけてリウマトロジーセンターで診察した627人の外来患者について、テンダーポイントとドロリメーター(痛みの閾値を検査する装置)による検査を行った。
疲労、睡眠障害、不安、抑うつ、総合的な症状の程度、疼痛、機能障害、RDI(リウマチの程度を示す指標)について評価した。統計的分析の結果、RDIはテンダーポイントの数と比例関係にあった。ドロリメーターの測定値とRDIの関係はそれよりも明確でなかった。
RDIは線維筋痛症の個々の症状よりも、痛みの閾値に関係するこの二つの指標により強く関係していた。個別の分析では、ドロリメーターの測定値はテンダーポイントの数を介して症状と関係していることが示された。結論テンダーポイントの数は線維筋痛症の症状と直線的な関係にあり、テンダーポイントの数が非常に高いからといって、不連続に症状が亢進するのではない。
線維筋痛症ははっきりと認識できる病気としての実体は持ってはいるが、線維筋痛症を不連続な、他と切り離された疾患として治療することには理論的根拠がない。臨床においても研究においても、全ての範囲の圧痛と苦痛に目を向けることが妥当である。
▶More pain, more tender points: is fubromyalgia just one end of a continuous spectrum?
マンチェスター大学、キール大学、ヘイウッド病院の共同研究です。
著者:Peter Croft, Jonathan Burt, Joanna Schollum, Elaine Thomas, GrayMacfarlane, Alan Silman
Annals of the Rhoumatic Diseases 誌 1996年; 55:p 482-485
目的:一般的に筋骨格系の疼痛と圧痛点とは関連があるが、線維筋痛症はそのような関連のスペクトラムの中の極端な場合かもしれない。この研究の目的は、線維筋痛症は筋骨格系の疼痛の極端な場合である、とする仮説の検証である。方法:筋骨格系の疼痛に関するサーベイにより選定された177人を被験者として調査した。調査は被験者が痛みのある場所を人体図に記入する方法と、アメリカリウマチ学会制定の圧痛点の診査により行った。
結果:被験者が痛みがあると訴えた体の部位と圧痛点の存在との間には、比較的強い関連が認められた。さらに、圧痛点が増えるに従って、痛みを訴える部位の数も増える傾向が確認された。圧痛点の数が多いと、非特異的な痛み、うずき、強張りが出る、と言う関係も認められた。しかし、圧痛点の数がある値を超えると急激に線維筋痛症になると言う明確なカットオフは認められなかった。
結論:この研究により、圧痛点と痛みの関係は一般的なものであり、慢性的な広範囲の疼痛を有する患者のみに制限されるものではないことが示された。痛みを訴える場所が増えるに従い圧痛点が連続的に増加したことは、線維筋痛症と局所的に限定された疼痛の違いは質的なものでなく、程度の差であることを示唆する。
▶Myofascial pain, fibromyalgia or fibrositis?
著者:JMS Pearce(Hull Royal Infirmary)
Europian Neurology誌 2004年;52:P67-72
筋筋膜痛、線維筋痛症と結合組織炎と言う用語について、厳密に検証する。それらの用語は非特異的な筋骨格性の痛みと疼痛の診断名であって、エビデンスの分析によると、これらの診断名は、明確な身体的徴候または一定の病理学的または生化学検査の異常値によって決定できるものではないことが示されている。
これらの診断名によって明確に表現されている筋、筋膜、線維組織の障害の、客観的なエビデンスはどのようなものだろうか?『局所性の疼痛』または『慢性疼痛』という用語は、単に状態をそのまま表現しただけで、診断のための基本やメカニズムに則っているわけではなくい。単に臨床的問題を言い換えただけに過ぎないのである。
異なる診断基準にもかかわらず、慢性疲労症候群を含むこれらの症候は、多くの人口統計学的かつ臨床類似点がある。特に明確な点は、圧痛点とトリガーポイントの存在である。実際、これらの用語(筋・筋膜痛症候群、線維筋痛症)はしばしば明確な区別なく、混乱して使われるものである。
これらの疾患の間には症状、理学的所見、臨床検査、機能的な状態、心理社会的特徴と精神障害に関して僅かな違いしかない。本論文の意図は、痛みと疼痛の存在を否定しようとするものではなく、これらの用語の有用性を厳密に調べようとするものである。唯一の身体的徴候は、筋肉または筋付着部のトリガーポイントの存在である。
研究が示すところによると、トリガーポイントは疼痛に関連した一般的症状の指標であるが、(統計的分析によると)それとは別個に疲労と抑うつとに関連している。トリガーポイントは一部の健常被験者でも存在しているし、同じ個人でも時によって変化する。また、トリガーポイントでは明白な病理学的変化は認められない。
それゆえ、これらの一般的に使われてきた診断名は、はっきりと識別できる疾患を示すものではない、と言われてきた。そのような主張に対する、可能であるが未証明の対立仮説は、これらの症状は抹消と中枢の神経性疼痛に関連し、ある場合には心理的または故意により修飾されるというものである。
▶Effect of Occlusal Therapy on Patients with Myofascial Pain Syndrome and Fibromyalgia.
著者Yamada T, Yamamoto Y
Modern Rheumatology誌 2005年 15号 サプリメント p 266
私と元九州大学歯学部助教授の山本先生との共同研究です。
咀嚼筋の筋筋膜痛症候群である顎関節症では、その10%が広い範囲に痛みが広がった重症型に移行する。顎関節症と線維筋痛症には筋痛、疲労、過敏性大腸炎、睡眠障害などの多くの共通した症状が見られる。我々は筋筋膜痛症候群一般と線維筋痛症に対する咬合治療の効果を検定した。
73人の筋筋膜痛症候群の患者(男性l6人、女性67人)に咬合治療を行った。効果の判定はテンポイントビジュアルアナログスケール(VAS)で行った。VASは顎、首、肩、腰、足、腕の左右それぞれについconclusions:
現在行われている顎関節症の診断と分類は、病因論に基づいたものではなく、兆候や症状に基づいている点に重大な問題がある。
. TMDの症状は治療されるべきか、治療する場合には、どのような時期に、どのような方法で行うべきかと言う点を含む多くの問題について、臨床家委員会での意見の一致は得られなかった。
TMDの初期治療として、他の方法より優れていると認められる治療法は無かった。更に加えて、それらの治療法が、プラシーボを使った場合や治療をしなかった場合に比べて、より有効であるかは未確認である。ほとんどの場合、保存的方法で症状の改善や寛解が得られるのであるから、大多数のTMD患者では非侵襲的で可逆的処置を適用すべきである。
ほとんどのTMD治療の有効性は未確認である。ほとんどの治療法は長期的研究による適切な評価は行われていない。ランダマイズコントロールを用いた研究で検討された治療法は存在しないと言っても過言ではない。臨床的観察は治療の方向性を示すことが可能かもしれないが、それらの直感は厳密で科学的な評価によって検証されなければならない。
いくつかの一般的に信じられている考えには、それが正しいと信ずるに足るデータが存在しない。例えば、治療によって予防することが出来るとする考えを支持する根拠は無い。付け加えれば、歯科矯正治療はTMDを予防するのか、悪化させるのか、引き金を引くのかを判断するに足るデータは存在しない。現在のデータからすると、咬合を恒久的に変化させる治療法は推奨されない。
ほとんどのTMDの問題に対しては、無侵襲の治療法が望ましいことは明らかである。しかし、少数のしつこくて重度の痛みや機能障害を有する患者で、顎関節がそれらの痛みや機能障害の原因であることが明らかである場合には、外科的療法を考慮する余地がある。
難治性の痛みと機能障害を持つTMD治療の最も有望なアプローチは、エビデンスに基づいた医療と患者中心のケアの結果得られるだろう。休養と行動認知療法は慢性疼痛のコントロールに効果的である。理学療法からのアプローチには、代替療法と同様に、科学的な方法による有効性の評価が必要である。
顎関節症の診断と治療は、基礎及び臨床を含む、多方面の専門家の共同研究によって進歩すると予想される。
適切で安全な顎関節症治療を確保するために、専門的教育が必要である。殊に、薬理的、外科的、行動学的アプローチに関しての教育が必要である。更に言えば、患者が治療のためにどこへ行くべきか知っておく必要がある、又は保険会社が顎関節症の治療の必要性を完全に認めるべきであるとするなら、その前提として、この深刻な健康上の問題の、診断と治療に必要な専門知識に関するコンセンサスが形成されなければならない。
▶Widespread pain and the effectivness of oral splints in myofascial face pain.
Kare G Raphael, Joseph J Marbach 著
掲載誌:Journal of American Dental Association 2001年 3月 vol. 132; p305-316
アメリカ歯科医師会の機関誌に掲載された論文です。
1)研究の背景
顎関節症の治療でもっとも多く使用されていると考えられる口腔スプリント療法は、有効であるか否かについて非常に不可解な問題をはらんでいる。最も信頼性の高い有効性の検定方法である二重盲検法による複数の研究の結果は、結果が一致せず、有効であるとする研究もあれば無効であるとするものもある。
顎関節症にはいくつかのサブタイプが有ると仮定すると、この矛盾した結果を説明できる。これまでにも、この仮説に沿った研究はいくつか行われてきたが、本研究では広範囲に痛みがある場合とない場合で顎関節症は分類できるのではないか、との仮説を検証する。
2)方法
研究は二重盲検法で行われた(強いエビデンスである。:山田注)。
筋筋膜性顔面痛を有する63人の女性患者を、上顎に装着する硬質アクリルレジン製の平坦な表面のスプリントを使用するグループと、咬合面を被覆しない口蓋スプリント(プラシーボ=治療効果の無い偽の装置、症状に対する心理的影響を調べるために使う。c.f.プラシーボ効果:山田注)を使用するグループに割り振った。被験者は同時に、全身に広範囲な痛みがあるグループとないグループにも分類された。
6週間、夜間にスプリントを使用した後に、各群の触診に対する痛みと、自発痛および機能障害の程度について評価、比較した。
3)結果
a)スプリントとプラシーボの比較:
痛みの強さの平均は両群とも時間とともに統計的有意に(明らかに)減少した。しかし両群の差は明確でないが、スプリントが軽い傾向があった。一番ひどい時の痛みの程度は、両群とも時間とともに統計的有意に減少した。軽い痛みは両群とも時間とともに統計的有意に減少した。両群の差は認められなかった。痛みに関する効果については、両群の間の明確な差はなかった。
次に触診により痛みを感じる筋肉の数を比較した。スプリント使用群とプラシーボ群の間には統計的有意さはなかった(スプリントの有効性は認められなかった)。13種類の機能障害(例えば、痛みにより咀嚼、硬い食物を咬めるか等)に対する有効性はロジェスティック回帰分析で検定した。その結果、スプリント群とプラシーボ群に差は認められなかった。
b)局所的な痛みと、広範囲に痛みがある場合の比較
痛みについては、局所的な疼痛群のみにスプリントが統計的有意に有効であった。圧痛点の数の変化に関しては、各群の間に統計的差は認められなかった。
4)検討
この研究の結果からすると、スプリントの有効性は中程度と考えられる。文献的には、スプリントには弱い有効性が認められるとするものや、その反対に有効性が認められないとするものがあり、混乱、矛盾している。しかし、被験者を局所的疼痛のみのものと、広範囲に広がる疼痛を訴えるグループに分けると、局所的疼痛のみの被験者において、スプリントに中等度の有効性があり、広範囲に疼痛がある被験者ではスプリントは効果が無い。(続く)
▶先生の知りたい医学がここにある※顎関節症※
1.顎関節症の概要
1-1 ありふれているけれど、わかりにくい病気
顎関節症という言葉は、感染や炎症や外傷などが認められないにもかかわらず「顎が痛い」「口が開かない」などの症状が出ている状態を表現する用語です。少し判りにくいかもしれませんね。より厳密な定義として、顎関節症に関する最も大きな学会である日本学関節学会では「顎関節や咀嚼筋の疼痛、関節雑音、開口障害ないし顎運動異常を主要症状とする慢性疾患群の総括的診断名」と規定しています。どうでしょうか?ますます判りにくくなってしまったかもしれません。特に顎関節症と他の顎が痛くなる病気との鑑別が難しそうに思えるのではありませんか? ともあれ、顎関節症とは右の図で示した関節円板の変形などによる開口障害や、咀嚼筋の痛みを伴う疾患であると、ひとまず理解しておいて下さい。
1-2 顎関節症は状態を表す名前
このわかりにくさの一番の原因は、顎関節症と言う言葉がいわゆる疾患の名前ではなくて、体の正常ではないある状態を指す言葉だからです。病気のメカニズムが明らかにされ、それによって病名が決められている病気とはちがい、病気そのものの解明が進んでいないために、症状でしか病気を説明できない、そういう段階にある病気なのです。今のところ顎関節症の原因は明らかではありませんし、それどころか単一の疾患であるのか、複数の疾患の集合体であるのかについても、専門家の間で意見が分かれているのです。
1-3 名は体を表わ・・・さない。顎関節症は関節の病気とは限らない。
顎関節症は名前からすると顎関節の病気のような気がしますが、実際には多くのケースで痛みの原因は咀嚼筋です。確かに昔は顎関節症が関節の病気と思われていた時期がありました。それは、以前は顎関節症の英語表記はTMJ(Temporo Mandibular Joint disorders)であったことでも知られます。その後の研究から、筋症状の重要性が理解されるようになり、病名からJointが取れてTMDと呼ばれるようになりました。
1-4 アメリカ国立衛生研究所のステートメント。
顎関節症に関しては多くの異なった見解があり、また、治療法に関しても様々な意見があり混乱していたために、1996年にアメリカ国立衛生研究所が包括的な調査を行い、その時点での最も妥当と思われる顎関節症の知識についてのステートメントを出しています。このステートメントに述べられた治療指針は良くできた指針で、いまでは多くの大学病院や顎関節症治療のスペシャリストが採用しています。そこで、以下、アメリカ国立衛生研究所のステートメントに沿って治療法などについて解説します。
2. 治療はどのようにするか?
2-1 アメリカ国立衛生研究所のステートメントの概略
顎関節症(TMD)の治療に関するステートメントの部分を要約すると、次のようになります。
1)TMDの症状は治療されるべきか、治療するならいつどのような方法で行うべきかと言う点を含む多くの問題について、臨床家委員会での意見の一致は得られなかった。
2)TMDの初期治療として、他の方法より優れていると認められる治療法は無かった。更に加えて、それらの治療法が、プラシーボを使った場合や治療をしなかった場合に比べて、より有効であるかは未確認である。ほとんどの場合、保存的方法で症状の改善や寛解が得られるのであるから、大多数のTMD患者では非侵襲的で可逆的処置を適用すべきである。
3)ほとんどのTMD治療の有効性は未確認である。ほとんどの治療法は長期的研究による適切な評価は行われていない。二重盲検法を用いた研究で検討された治療法は存在しないと言っても過言ではない。臨床的観察は治療の方向性を示すことが可能かもしれないが、それらの直感は厳密で科学的な評価によって検証されなければならない。(注 現在は検証されていない)
4)いくつかの一般的に信じられている考えには、それが正しいと信ずるに足るデータが存在しない。例えば、治療によって予防することが出来るとする考えを支持する根拠は無い。付け加えれば、歯科矯正治療はTMDを予防するのか、悪化させるのか、引き金を引くのかを判断するに足るデータは存在しない。現在のデータからすると、咬合を恒久的に変化させる治療法は推奨されない。
2-2 実は分からないことだらけ
ステートメントをご覧になってどのように感じられましたか?「なんだ、分からない分からない、としか書いてないじゃないか。」と思われたかもしれません。実はその通りで、我々は顎関節症に関して確実なことは何も分かっていないと言うことが分かった。無知であることを自覚した、という内容です。
2-3 確実に分かっていることは
1990年代から始められた科学的方法による研究は、それまで経験的に信じられてきた知識を否定したばかりでなく、新しい確実な知識ももたらしました。その最も大きな成果は大規模な疫学調査の結果によるものです。その研究により、ほとんどのケースで顎関節症の症状は一時的であり、症状が消えた後で再発することもあるが、特に症状が重くなることはない事が分かったのです。
従来、顎関節症は必ず治療しなければいけない病気と思われていました。放置しておくと悪化するので、原因である歯並びを治す必要があるとも考えられてきました。しかし、そうではなくて、顎関節症は放置しておいても危険な状態になることは希であり、また、かみ合わせを変える治療法や外科療法は、危険性の割に有効性が確かでないので、可逆的な治療が第一選択と考えられるようになりました。
2-4 治療のメインは対症療法
ほとんどのケースで症状は一時的なものですし、また、際限なく症状が進行するわけではありません。その上、原因も明らかではないので、原因療法ではなく対症療法によって症状を和らげることが治療の主目的となります。通常、最初に行われる治療は、侵襲性が低い次のような治療法です。
1)薬物療法
非ステロイド系消炎鎮痛剤、筋弛緩剤が急性の顎関節、咀嚼筋痛に対して処方されます。時にはマイナートランキライザーや抗うつ剤なども使用されます。
2)スプリント
上顎、または下顎の歯列のかみ合わせ面全体に被せる馬蹄形をしたプラスティックの装置です。上下の歯牙が直接当たらないようにして、痛みを和らげます。必ずしも効果があるわけではありませんが、安全性が高いので最も一般的に行われている治療法です。3ヶ月程度使用しても効果が見られない場合は、使用を中止するほうが良いでしょう。スプリントの作用機序は分かっていませんが、古くから一般的に使われています。
3)物理療法
赤外線治療器、低出力レーザー、電気治療器など腰痛でおなじみの装置です。ホットパックなどで咀嚼筋を暖めると、痛みが緩和することもあります。
4)行動医学療法
日常生活の中で無意識に行っている行動が、顎関節症を悪化させることがあります。無意識に歯をかみしめる癖があると、関節や咀嚼筋群に過大な負荷を掛け、顎関節症を悪化させます。また、猫背などの悪姿勢も顎関節症の誘因になると言われています。筋の活動をモニターしながら筋をリラックスさせる感覚を習得するバイオフィードバックも、効果があると言われています。
5)運動療法
咀嚼筋のストレッチや器具を用いたエクササイズ、下顎の運動領域を広げるために用手的に強制開口させるなどの方法です。
2-5 それでも治らない時には、可逆的で侵襲のやや大きい治療法
1)パンピング・マニュピレーション
関節部の病変に対する治療法です。関節円板が変形して開口障害が起きた場合に、生理食塩水や0.5%キシロカインなどを上関節腔に注入して膨らませ、同時に徒手的に関節を復位させる処置です。
2)上関節腔洗浄療法
関節腔に貯留した発炎物質が疼痛の原因であると思われる時に行われます。生食で関節腔内を灌流洗浄した後に、ヒアルロン酸やステロイドを注入します。
2-6 可逆的でなく侵襲の大きい治療法には見直しが必要
変形した関節円板を外科的に除去する関節円板除去術などの外科療法は、ほとんど適応症がないと言われています。かつてはかなり頻繁に行われていましたが、有効性が疑問視され、徐々に行われなくなってきました。
3.顎関節症について最近の知見
3-1 ほとんどのケースで重症化しない。しかし、少数のケースで…。
これまで何度も、顎関節症には特に効果の高い治療法はない。しかし、ほとんどのケース、およそ90%以上のケースで重症化しない、と書いてきました。これだけ読むとほとんど問題のない病気のように思えてしまうでしょうが、そういうわけではありません。ほとんどのケースは問題がありませんが、しかし、少数のケースで重症化、慢性化が見られ、それが顎関節症治療の大きな問題になっています。
従来、侵襲が大きく不可逆的な治療が頻繁に行われてきましたが、それが必ずしも必要でないことを強調するために、ほとんどのケースでは重症化しない事をあえて強調しました。とは言うものの、実際には顎関節症が治らなくて苦しんでいる患者さんはたくさんいます。それと言うのも顎関節症の罹患率は10から20%と非常に高いため、慢性化、重症化するのは比率としては少数であっても、絶対数としてはかなり多いのです。慢性化、重症化して通常の保存的治療では効果がない場合には、リスクの高い治療法もやむを得ないかもしれませんが、そのような治療を受ける時にはリスクについてよく説明を受けるようにしてください。
3-2 こんな時には治りにくい…重症化するケースの特徴。
顎関節症は謎の多い疾患ですが、研究者を悩ませてきた大きな問題にスプリントの有効性の検定に関する謎があります。厳密な研究の結果、スプリントは有効であるとする研究もあると同時に、有効性を否定する結果になった研究もあるのです。そこで、この矛盾に対する解釈として、顎関節症には複数のサブタイプがあるのではないかと考えられ始めています。
では、どのようなタイプが重症化、慢性化しやすいかと言えば、「顎だけでなく、首や肩や背中、腰などに同時に痛みが出てくるタイプ」の危険性が高いという報告があります。
3-3 線維筋痛症は顎関節症から始まる?
このような広範囲に痛みが出るタイプの顎関節症患者の臨床的印象は、線維筋痛症を連想させるものがあります。実際、線維筋痛症患者の90%以上に顎関節症の症状が認められるという報告や、線維筋痛症患者の40%は線維筋痛症と診断される以前に顎関節症と診断されていて、顎関節症の治療を受けていた、との報告があります。
そのようなわけで、慢性化、重症化する顎関節症とは線維筋痛症に移行しかかっている状態なのではないかと考えられ始めています。最近、ヨーロッパやアメリカの学会誌には、顎関節症と線維筋痛症は同じグループの疾患である、という立場からの研究論文が目につくようになってきました。


