顎関節症と線維筋痛症のメカニズム


顎関節症と線維筋痛症のメカニズム1、 中枢感作
顎関節症と線維筋痛症のメカニズム2、 筋の異常
顎関節症と線維筋痛症のメカニズム3、 原因としての口腔
顎関節症と線維筋痛症のメカニズム4、 三叉神経中脳路核
顎関節症と線維筋痛症のメカニズム5、 口腔から下行性疼痛制御系への神経経路について


顎関節症と線維筋痛症のメカニズム1 中枢感作


他のページで顎関節症、線維筋痛症、慢性疲労症候群、原発性月経困難症、過敏性大腸炎に中枢感作という異常が起きていることをお話ししました。そのページでは中枢感作(Central sensitization)の内容までは説明してありませんでしたので、ここで簡単に中枢感作についてご説明しましょう。

1965年に、通常は痛みと感じない程度の刺激を皮膚に連続的に加えると、徐々に痛みを感じるという現象を研究していたMendellとWallは、皮膚の感覚受容器から脊髄に送られる信号は増加しないにもかかわらず、脳に送られる信号は増加していることを見いだしました。

この現象はtemporal summation of second painまたは簡単にwind upと呼ばれ、中枢が疼痛の感度を増大する機能を持っていること示すものです。健康な人でもこのwind upは起きるのですが、顎関節症、線維筋痛症、慢性疲労症候群、原発性月経困難症、過敏性大腸炎では異常な痛み感度の増大が起きることが報告されています。そして、この異常なwind upを中枢感作と呼びます。

これらの疾患では、普通は痛みと感じない程度の体の異常でも、強い痛みと感じられるようになるわけです。痛みの感覚は命を維持する上でとても重要な感覚です。緊急時には生命の維持に不必要な痛みの信号はカットされ、微細でも危険な信号は増強され、不安な精神状態では痛みは増強されます。このような中枢の機能は、下降性疼痛抑制系と呼ばれています。この機能は多くの部位が関係した非常に複雑な系によって制御されていますが、青斑核のノルアドレナリンニューロン、中脳中心灰白質および延髄大縫線核のセロトニンニューロンが主要な働きをしていると言われています。



近年、抑制ばかりでなく興奮性の系もあることが発見されました。興奮性の系は中脳中心灰白質や三叉神経中脳路核などの中脳深部の核にコントロールされて延髄背側網様体がその機能を行っていると言われていますが、まだ、明らかではありません。そして、この中枢の機能は中枢感作に深く関わっているものと考えられています。


顎関節症と線維筋痛症のメカニズム2 筋の異常


ずいぶん長い間、慢性の筋肉の痛みは、筋の過労やそれに伴う損傷が原因であると考えられてきました。しかし、実際に組織を取り出して顕微鏡で調べてみると、スパズムなどの筋の異常は見つけることができませんでした。そのため、筋筋膜痛症候群(含む顎関節症)、線維筋痛症などの慢性疼痛の原因は中枢性のものだと考えられるようになりました。しかし、近年、放射性同位元素を使って高エネルギーリン化合物の代謝を調べる研究によって、線維筋痛症では筋中のATP濃度の減少が起きていることが分かりました。そして、ATP濃度の減少の程度と症状のひどさには関係があることも分かりました。また、電子顕微鏡による研究で、ATP合成の場である細胞中のミトコンドリアの変形が発見されました。そのため、現在では中枢神経の異常だけでなく、局所的異常も関与しているかもしれないと言われています

このページは

1)      Roland Staud著 “The Neurobiology of Chronic Muscleskeletal Pain (Including Chronic regional Pain);
 Fibromyalgia & Other Central Pain Syndrome
 Lippincott W& W出版


2)Kenneth J. Friedman著
Pathophysiology in CFS ” A Consensus Manual for the Primary Care and Management of Chronic Fatigue Syndrome

の記事をベースに書きました。より詳しく知りたい方はそちらをお読みください。



顎関節症と線維筋痛症のメカニズム3 原因としての口腔 


私は別のページで示した手順で口腔の治療をして、顎関節症や、更に悪化した状態である線維筋痛症の治療をしています。なぜこのような治療が線維筋痛症に有効であるか、その理由をこれまでに明らかにされているエビデンスを基に考えてみましょう。

私の治療法の著しい特徴は即効性です。顎の位置の誘導が終わると、ほとんど同時に症状が改善します。このことは、痛みなどの症状の主な原因は組織の損傷ではなく、中枢神経に係わるものであることを示しています。

また、歯をかみ合わせた状態ではなく、若干浮かせた状態で効果が出ていることから、下顎の位置に関係する口腔の要素がこの反応に重要な役割をしていることも推測されます。とすると、口腔の固有感覚受容器からの信号が入力していく感覚核である三叉神経中脳路核が、重要な鍵を握っていると考えられます。


顎関節症と線維筋痛症のメカニズム4 三叉神経中脳路核

三叉神経の感覚は脳の非常に大きな面積に伝えられるだけでなく、生体の維持に必要な特殊な分野へも伝えられます。それはエネルギー摂取と消費に関係した機能です。口腔からの信号は三叉神経中脳路核を経て後部視床下部の結節乳頭核に伝えられ、この部のヒスタミン駆動性ニューロンを活性化させます。また、腹内側核の満腹中枢に伝えられ食欲を調節します。

線維筋痛症や顎関節症では睡眠障害や微熱が見られますが、三叉神経はこれらの症状に関与しています。結節乳頭核の交感神経線維は、脂肪組織や筋中のUCPを活性化させて、熱産生を増大させ、体温を上昇させます。これは食事誘導性熱産生と呼ばれる現象です。

また、結節乳頭核ヒスタミンニューロン系は睡眠覚醒のリズムを作っていることも知られています。抗ヒスタミン剤を飲むと眠くなりますが、それは睡眠覚醒を担っているヒスタミンニューロン系の働きを、薬剤がブロックするからです。最近市販された睡眠誘導剤ドリエルは強力な抗ヒスタミン剤です。


また、UCPは線維筋痛症の筋の異常に関与している可能性が高いのです。UCPは血中の糖を分解して熱を作りますが、ATPは解糖系により糖が分解されるエネルギーを使って合成されます。UCPとATPは糖の大口消費者なのです。片方の大口消費者が活発に活動すればもう片方はどうなるか、おおよそ予測がつくと思います。

実際、遺伝的にUCP活性が高いUCP−Hマウスでは、筋のATP濃度の減少、ミトコンドリアの変形、筋力の大幅な低下が見られます。線維筋痛症に関して、現在確認されている唯一の組織的異常は、筋のミトコンドリアの変形です。そして、ATP濃度の減少と線維筋痛症の症状との間には相関が認められると報告されています。UCPの慢性的活性化は線維筋痛症と同様な障害をもたらします。


大脳での痛みの受容に関してもヒスタミンニューロン系は大きな影響を持っています。遺伝的にヒスタミン受容器が欠損している実験動物であるヒスタミンH1レセプターノックアウトマウスは、痛みに対する反応が鈍いことが知られています。これらのことから、咬合治療の効果は口腔の固有感覚受容器―三叉神経中脳路核系によるものと考えられます。次のページでは、口腔の固有感覚受容器と下行性疼痛制御系、中枢感作とのかかわりについて述べたいと思います。



このページの参考文献

1)R. B. Raffa著
 “Antihistamines as analgesics”
 掲載誌: Journal of Clinical Pharmacy andTherapeutics 2001年 26, 81-85


2)谷内一彦,倉増敦朗,櫻田忍

”ノックアウトマウス研究から明らかにされる痛み受容におけるヒスタミン受容体の役割”
掲載誌: 日薬理誌(Pharmacol. Jpn.) 2003年 122,391〜399



3) G. Vanni-Mercier, S. Gigout, G. Debilly, J.S. Lin

Waking selective neurons in the posterior hypothalamus and their response to histamine H3-receptor ligands: an electrophysiological study in freely moving cats;
掲載誌: Behavioural Brain Research 2003年 144 227-241



4)吉松博信,坂田利家 著
“エネルギー代謝調節における神経ヒスタミン機能”

掲載誌: 「肥満研究」2001年 Vol. 7 No. 2


5) Dong-Ho A. Nolte, Jeong-Sun Ju, Trey Coleman, John O. Holloszy, and Clay F. Semenkovich
UCP-mediated energy depletion in skeletal muscle increases glucose transport despite lipid accumulation and mitochondrial dysfunction”
掲載誌: American Journal of Physiology, Endocrinology and Metabolism 2004年  286: E347-E353,




顎関節症と線維筋痛症のメカニズム5, 口腔から下行性疼痛制御系への神経経路について

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