コラム

日々の診療で考えることを、取り留めもなく書いていこうと思います。


慢性疼痛治療装置の特許
咬合治療をする歯科医師の高齢化について
歯が原因ではない歯の痛み−非定型歯痛(非歯原性歯痛)
歯科医の対応で気になっていること
正常なのに痛い。関連痛て何?
私の医院での咬合治療の有効率
咬み合わせでおきる微熱





慢性疼痛治療装置の特許
                                          H19.10.6

もう20年ほど前になりますが、私が都立広尾病院と芝浦広大の合同チームに参加して、医用レーザーの研究をしていた頃に考案した慢性疼痛の治療装置があります。
私のアイデアを(株)東京医研が実用化して、スパーライザーの商品名で製品化してくれました。スパーライザーは累計で15,000台以上生産されました。この生産台数は、医療用機器としては大変多くて、いわばヒット商品となりました。

もちろん、私も使っていましたが、扱いに微妙なテクニックを必要としている点が気になっていました。出力を上げて、強い効果を狙うと不快な熱さを感じてしまうのです。

この欠点を改良するために、出力をパルス化してみました。慢性疼痛の発現に深くかかわっている神経線維のC線維は、反復刺激に対してTemporal Summation of Scond Painと呼ばれる特殊な反応を示します。そして、この反応が慢性疼痛の発生メカニズムに深くかかわっていることが知られているので、その反応を応用してみようと考えたのです。

結果は、予想以上の成功でした。従来機にあった突然急速に強い熱刺激が始まると言った不快な現象は完全に改善され、心地よい刺激が安定して継続するようになりました。鎮痛作用も、それに伴って強力になりました。

私は早速特許を出願しました。2001年の春のことです。
特許庁から、特許を認めると連絡があったのは2007年の春、そして、特許証が私の手元に届いたのは、9月末のことです。

特許の有効期間は20年です。出願から6年かかって特許が認められ、それから実用機を開発するわけなので、特許の経済的意味はかなり減少してしまいました。
ちなみに、同時期に出願した中華民国では、2002年に特許が認められて、早々に証書が送られてきました。
時間は掛かったけれども、自分のアイデアが認められて形になろうとしていること自体がとてもうれしく、販売開始を心待ちにしています。

左の写真の上が中華民国、下が日本国の特許証書です。
咬合治療をする歯科医の高齢化について               H19.3.21

私はいくつかの咬合治療関係の学会や研究会に入っていますが、どの会でも参加者の高齢化が進んでいて、最近それが気になるようになりました。

先週あった研究会は40人ほどの小さなものでしたが、参加者のほとんどが50代から60代で、70代もちらほらいました。髪に白いものがない先生は一人か二人、最年長は86歳というありさまでした。86歳で現役の歯科医と言う先生のパワーには脱帽するしかない思いでしたが、若手がいないと言うのは、あまりに寂しいことです。
高齢化の傾向は、どこの咬合治療の研究会でも同じようです。

どうやら若手の歯科医師は咬合治療には関心が薄いようです。
この傾向の原因として、二つほど思い当たるものがあります。


1980年代の歯科医学の先端的テーマは咬合でした。その頃の咬合の研究者は、歯科界では一目置かれる存在でした。全調節性咬合器を使ったオーラルリハビリテーションは、最先端の高度な治療システムとして憧れの目で見られていました。そのような治療で咬合再構成をすれば、顎関節症も不定愁訴も治療できると信じられていました。

しかし、1990年代になって歯科研究に採用された統計的、科学的研究デザインは、従来信じられていた知識をひっくり返してしまいました。不正咬合であろうとなかろうと顎関節症の罹患率に差がないことが疫学的に証明され、側方運動の干渉を除去する咬合調整をしたグループと、何もしなかったグループを比較すると顎関節症の治り具合に差がない、スプリントは入れても入れなくても顎関節症の症状の改善度に大きな差がないこと、などが次々に明らかにされました。その結果、咬合に対する歯科医の関心は急速に薄れてゆきました。

現在では、顎関節症は腰痛などと同じ整形外科的疾患であると考える歯科医が多くなり、先端的研究者は、顎関節症患者にしばしば見られる不定愁訴は”身体表現性疼痛症候群”によるものであると解釈しています。

このような流れで、咬合に対する歯科医の関心は急速に薄れてきています。
これが一つの原因でしょう。


さて、現在咬合治療をしている歯科医の多くは、80年代のやり方を踏襲しています。具体的には咬合平面を整える、臼歯部の歯牙が緊密に接触するように調整をする、側方運動時の歯牙の接触をコントロールするなどのやり方です。彼らは80年代の咬合治療法は有効である、と主張していますが、その考えを証明するデータを提示したものはいません。
エビデンスを重視する現代歯科医学の目から見れば、やはり非科学的に感じられるでしょうし、若い歯科医師が関心を示さなくなるのも自然な流れでしょう。
古くからある咬合治療が有効かどうか疑わしくみえてしまう、これが第2の理由でしょう。


1980年代の咬合理論全盛期の頃の私は、応用物理学の世界から歯科へ移ってきたばかりでした。それまでに勉強してきた科学の世界からすると、その「咬合理論」はあまりに異質でなじむことができませんでした。そのため私は長い間、咬合理論については敬遠していました。

しかし、1990年代の後半になると、顎関節症や線維筋痛症に関する多くの科学的研究が行われるようになりました。その結果、この病気に対する正確な知識が飛躍的に増大しました。私は、その新しく正確で科学的な知見をベースに、その当時咬合の新たな問題として浮上した「顎位決定法」について研究し、ようやく病態生理学的エビデンスに基づく咬合治療法を開発することができました。

不定愁訴に対する有効率を飛躍的に高めたこの術式の開発によって、咬合治療に関心を示さなくなった若い歯科医たちが、再び咬合に目覚めてくれるだろうと期待しています。

非定型歯痛のおはなし                             H17.8.10

歯の痛みは主にむし歯による歯髄炎や歯根膜炎が原因で起こります。しかし、それ以外に「非定型歯痛」と呼ばれるものがあります。かつて、むし歯が蔓延していた時代には「歯の痛み=むし歯」と短絡的に考えても差し支えなかったのですが、むし歯が激減した今日、相対的に「歯が原因でない歯痛=非定型歯痛」の問題が重要視され始めました。4年ほど前(2001年)、九州大学の招きで来日したUCLAのクラーク教授が非定型歯痛についての講演をしたときには、聴講していた歯科医は耳慣れない話に目を白黒させたものでした。その後、日本でも非定型歯痛を扱う学会である日本口腔顔面痛学会が設立されたり、歯科医向けの医学雑誌で特集されたり、徐々に認知されるようになりました

非定型歯痛の症状は?

咬むと痛い、しみる、ズキズキ痛む。非定型歯痛と虫歯の痛みはとてもよく似ていて区別がつきません。その上にレントゲンでは何も変化が見られません。ですから、非定型歯痛で痛みが出ている歯に、たまたまレントゲンでむし歯や歯根膜炎が見つかると、むし歯や歯根膜炎として処置されることになります。

むし歯はどんなに痛くても処置を受けると劇的に痛みが引いてしまうのですが、非定型歯痛では神経を取っても、根の治療をしても痛みは止まりません。思い余って歯を抜いても痛みが更にひどくなったりします。むし歯とほとんど区別がつかない上に、むし歯の処置をすると悪化する場合がある、これが非定型歯痛のとても困った性質です。また非定型歯痛はしばしば抑うつ症状を伴い、舌痛症、筋痛、睡眠障害、過敏性大腸炎などのいわゆる顎関節症随伴症状を伴うことがあります。

年齢的には40歳以降が多く、性別では女性が非常に多く、歯科治療をきっかけに発症する場合もあると言われています。

非定型歯痛の原因は?

いくつかのメカニズムが指摘されていますが、有力なものは神経障害性疼痛によるものと関連痛によるものでしょう。神経障害性疼痛は外傷や慢性炎症や長期間の過剰な刺激などにより末梢神経の感受性が変化しておきると言われています。関連痛は痛みを感じる部位以外の場所の病変が原因で起きる痛みで、中枢神経系の反応異常(中枢性感作)によるものです。中枢性感作が原因の疾患には顎関節症、筋緊張性頭痛、筋筋膜性の腰痛、五十肩などがあります。非定型歯痛の関連痛は、咀嚼筋のひとつである外側翼突筋から起きているケースが多いようです。

非定型歯痛の治療は?

局所麻酔薬による関連痛原発部位のブロック、表面麻酔薬による脱感作、咬合の適正化による病的刺激の除去、抗うつ剤による疼痛のコントロールなどが行われます。

歯を治したら、その結果不定愁訴が治るかもしれない、と言う言い方について

私は咬合治療を中心に診療しているので、歯科治療の後で顎が不安定になったり、首や背中が痛くなった、手足がしびれるようになった、不眠症になったなどの訴えを持つ患者さんの治療をする機会が多いのですが、患者さんの訴えの中に、とても気になることがあります。

それは、多くの歯科医が「歯をきれいに治したら、その結果、不定愁訴が治る可能性があります。」と患者さんに説明して、治療を始めているという点です。補綴治療であれ、歯科矯正であれ患者さんの主訴の原因が口腔にあることを確認しないままに治療を開始してしまっているのです。

そして、治療が終わって患者さんが「相変わらず背中がひどくいたい」「痛みがひどくなった」などの訴えをすると、「歯はきれいに治っているのだから、治療は終了です。その痛みは、歯とは無関係でしょう」などと返答していると言うことです。

これは、とてもいけない。有ってはならないことです。主訴の痛みが歯と関係が無いと診断しているのなら、初めから手を付けてはいけない。咬合と痛みの関連が不確かであるなら、後戻りのできない補綴処置や矯正治療をしてはいけません。それは、あまりにリスキーです。後戻りの効かない治療は、患者さんの痛みと咬合の関連性が明らかになって、咬合をどのように変化させたら症状をコントロールできるかが明確になった時点で、初めて、行うべきかどうかを検討するべきものです。


咬合治療の結果、症状が改善されなかったり悪化したりする時に、歯科医が「歯はきれいに治っているので、その痛みは咬合とは無関係です。」と説明することは、更によくないことです。それは、あまりに無責任な発言で、言い逃れにしか聞こえません。患者さんは歯科医が嘘をついていると感じるでしょう。

しかし、困ったことに、こういった発言をする歯科医は嘘や言い逃れを言っている意識はなく、心の底からそう信じているのです。彼らは、心の底から、歯の治療は済んでいるのに痛みを訴えているのは、患者のほうがおかしい、と信じているのです。私は何人もの歯科医から、「治療は済んで、きれいな歯列になったのに患者さんが相変わらず痛みを訴えている。どう見ても精神的なものだ。しつこく文句を言われて閉口している。どうしたものだろうか。」と言う相談を受けた経験があります。


歯科医側は患者さんの精神の問題と信じ、患者側は歯科医が嘘を言っていると感じている。あまりに悲劇的な構図です。このような不幸を招いている原因は明白です。歯科医が術前の診断を怠っているからです。不定愁訴の原因が咬合である事を確認せずに治療を始めることが、そもそもの間違いなのです。
現在の歯科医が言っていることは、まるで中世の医術です。
「症状の原因かどうか分かりませんが、ためしに臓器を摘出してみましょう」
こんなことは現代医学では許されません。

診断が付かなければ、手を付けない。そして、他の歯科医に治療をゆだねる。そういった度量が必要ではないでしょうか?

関連痛 について

統計によると、骨格筋系の痛みの50%ほど、リウマチに伴う痛みの30%程度はCentral sensitizationが原因で、関連痛と呼ばれるものです。

関連痛とは痛みを感じている場所以外が原因で起きる痛みのことで、それを治すためには痛い場所を治療するのではなく、原因となっている場所を治療することが必要です。例えば、腰痛や腕の痛みが関連痛であった場合は、腰や腕をいくらマッサージしても、すぐに効果が薄れて痛みが戻ってきてしまいます。慢性で、局所治療の効果が思わしくない腰や肩、腕の痛みは関連痛の可能性があります。

関連痛のメカニズムの詳細はまだ分かっていません。しかし、口腔からの関連痛は思いのほか多いものです。口腔が原因の関連痛で多いのは外側翼突筋からの関連痛です。

 人差し指を上顎の一番奥の歯の、更に後ろに当てて、上のほうを押してみてください。そこに痛みがあれば、あなたの慢性痛の原因は口の中の可能性が高いでしょう。

口腔の関連痛として良く知られたものに「アイスクリーム頭痛」があります。カキ氷などを勢いよく食べると、目の奥や頭の後ろが「キーン」と痛むことがありますが、あの現象をアイスクリーム頭痛といいます。口腔が原因で慢性疼痛になっている人は、アイスクリーム頭痛が強く出る傾向があるようです。



**参考文献**

1) Skootsky SA, Jeager B, Oye RK著

Prevalence of myofascial pain in general internal medicine practice.

掲載誌 Western Jpurnal of Medicin 1989年 151:157?160.

2)Fishbain DA, Goldberg M, Meagher BR, et al.

Male and female chronic pain patients categorized by DSM-III psychiatric diagnostic criteria.

掲載誌 Pain 1986年 26:181?197.

 3)Roland Staud著

Evidence of Involvement of Central Neural Mechanisms in Generating Fibromyalgia Pain

掲載誌 Current Rheumatology Reports 2002年 4:299-305







私の医院での咬合治療の有効率

第49回リウマチ学会で腰痛や肩こりなどの筋筋膜痛症候群と線維筋痛症に対する咬合治療の効果について発表しました。咬合治療前後の痛みの変化をVASで比較しました。下の図が筋筋膜痛症候群、いわゆる腰痛、肩こり、五十肩、などについての結果です。

 allpatientsVAS

 

 

 

 

そして、次が線維筋痛症患者の治療結果です。

 

FMpatientsVAS

 

 

 

 

どちらもよく効いているように見えますが、この図を見たうちの患者さんは不満そうに、もっと効いていると思います、と仰いました。

実はデータの集計法でこうなっているのですが、例えば「一番治療効果のあった場所の痛みはどれほど変わりましたか?]という質問からデータを取ると、約90%の患者さんが「痛みは十分の一以下に減った、もしくは無くなった」と回答しています。

そのアンケート結果を出してもよかったのですが、そこまで効果が高いと信憑性がなさそうな気がして、遠慮がちなデータを出したのでした。そういった変な気の使い方をした今回の発表でしたが、たまたま会場にいらした線維筋痛症の患者さんに協力して頂いたおかげで、その場で咬合治療の効果を見ていただく事ができました。会場の先生方には線維筋痛症と口腔には何らかの関係が有ると分かっていただけたと思います。

これからのテーマとしては、なぜリウマチになると線維筋痛症の危険率がおよそ6倍になるのかと言う点があります。私の立場から言えば、なぜリウマチになると口腔からの悪影響にこれほどまでに敏感になるのか、リウマチ患者の歯科治療のリスクをどう評価し、対応すべきか、それが非常に重要な問題です。




  

咬み合わせでおきる微

咬み合わせが悪くて体調を壊している方には、微熱が続いたりおなかを壊しやすかったりします。そういった症状は咬み合わせを治してゆくと比較的スムースに消えていきます。咬み合わせが悪いと微熱が出る理由はまだ証明されていませんが、おそらく白色脂肪組織中のUCPによるものではないかと考えています。

もともと咀嚼運動をすると体温が上昇します。この現象は食事誘導性熱産生と呼ばれていて、食物を消化吸収するのに役に立っているのですが、その仕組みについて長い間不明でした。マイクロダイアリーシス法の開発で、生きたままで実験動物の大脳中の各種化合物濃度を測定できるようになり、謎が解けてきました。


咀嚼運動をすると、歯根膜や咀嚼筋中の固有感覚受容器から中枢に向かう神経の信号が増えます。これらの求心性信号は三叉神経中脳路核に伝えられ、後部視床下部結節乳頭核のヒスタミンニューロン系を活性化させます。信号はさらに満腹中枢である視床下部腹内側核へ伝えられ、摂食運動をコントロールするための情報として使われます。一方、活性化されたヒスタミンニューロン系は交感神経性のヒスタミンニューロンによって、内臓や白色脂肪組織中のUCP2の熱産生を増加させ、体温を上昇させます。

動物の体温調節は筋肉からの熱ではなく、UCPによる非ふるえ熱産生が主な働きをしていますので、口腔内の感覚器の体温調整に関わる影響は、元来大きいものです。


かみ合わせの不調によって微熱がおきる現象も、多分このメカニズムに関係しているのでしょう。